腕の中で眠る大切な人。 突然居なくなってから、ずっと、ずっと待っていた彼。 「…フィーリー…急に居なくなるんだもの、心配…したのよ」 永久の眠りについた彼に、ただただ優しく。 自分の声が彼の耳に届く事はないとわかっていても、認めたくなくて語りかける。 認めてしまえば、それで終わってしまう気がして。 それが怖くて、そっと髪を撫でながら声をかけ続ける。 眠りにつく彼が、今にも眼を開けて照れくさそうに笑い掛けてくれそうで。 「ほんと…大事なこと、言わないんだから…」 溢れる涙もそのままに、二度と目覚める事のない彼に凭れて目を閉じる。 少しずつ失われる温もりが、現実を突き付けてくる。 彼の身体は機能を停止し、もう動く事は無い。 照れくさそうに笑う姿も、やさしいその両手で抱きしめてくれる事も。 「…フィーリー…っ」 認めたくないけれど、頭が理解し出してしまったら止まらなかった。 ずっと堪えていた感情が、涙と共に溢れだす。 「起きて…起きてよ…フィーリー、目を…開けて…。 嫌よ…独りに、しないで」 彼の亡骸に縋りついて慟哭する。 神様とやらは、どうしてこうも私に優しくないのだろう。 沢山話したい事も、一緒にしたい事もあったのに。 待ち続けてきた結末がこれだなんて、あんまりだ。 泣いて、泣いて、枯れるほど泣いても涙は止まらなくて。 ようやく落ち着いてきたのは、朝日が昇ってくるころだった。 「…終わりになんて、しない…」 彼だって、戻ってくると約束してくれた。 私が、立ち止まっていてはいけない。 眠るように旅立った彼の唇に、一度だけ唇を重ねそっと微笑む。 近くの森に亡骸を弔い、自らのお気に入りだった月桂樹の冠を傍らに。 「また、ね…フィーリー」 一度振り返り、その場所に声をかければもう振りかえらないと決めて。 再び出会える時を信じ、歩きだす。 遺してくれた帽子を被り、サングラスを胸元に掛ける。 歩きだした道が、再び彼に繋がっている事を信じて。 |